「ぐははは」母ちゃんがちびのやる事を見てバカ笑いしている。 しばらく、ウチのちびすけのことを喋っていなかった。 オレにとっては、同類のちびより、異類の生き物である母ちゃんを観察した方が面白いんだもの。 だけどこの頃ちびのヤツもずいぶん成長して、いろんなこと(おもにわるさ)ができるようになった。
今母ちゃんが大笑いしてるのは、ちびがスーパーのレジ袋の取っ手のところに首をつっこみ、本体をマントのようになびかせて部屋中飛び回ってるからだ。 本人(本猫)も気持ちいいらしくて、部屋を何週しても止めない。 オレも若い頃この袋かぶりをやったことがあるんだけど、取っ手のところが全身にからみついて身動きできなくなったばかりか、首まで絞まってきて往生したもんだ。 間一髪、母ちゃんが帰ってきて袋から出してくれなければ、オレは2歳何ヶ月で夭折(ようせつ)していたのである。 だけど、あの時のオレを発見した母ちゃん、そりゃもちろんすぐに助けなきゃとあせりもしたろうが、笑いをこらえきれずにいたようだった。 オレは目を白黒させながらダンゴ虫のように床を這いまわっていたんだ。
同じ袋を使っても、ちびはスーパーマンのマント。 オレはダンゴ虫。 なんなんだよう。 オレの方が頭悪いっての? そりゃ、ちびの方がスリムだし、小顔でクリクリ目で顎が締まってて、いかにも賢そうだ。 「目から鼻に抜けるような」おりこうさん、と母ちゃんもちびをほめあげる。 くそ~。 母ちゃん、オレが小さい時は「ぶんみたいにエラい猫はいない」って言ってたくせに。
人間の子供だって、妹や弟ばかりほめてると、上の子が嫉妬するじゃない。 オレだってそうだよ。 今まで我慢してたけど、ひとつここで暴れてやろうかな。 でもオレってやっぱりヒトがいいのか意気地(いくじ)がないのか、そういう気持ちも長続きしないんだよね。 それどころか、ウチのちびはすごいぞー、と宣伝したくなっちゃうんだ。
あのね、ちびは、「イナバウアー」ができるんだよ。 ピンと来ない人に言おう。 普通、猫ってのは文字通り「猫背」で、日向(ひなた)で背中をまんまるにしてぬくもってる姿がすぐ目に浮かぶでしょ。 だけど逆方向に背中を曲げるのは苦手なんだ。 ところが、ウチのちびは母ちゃんが「猫じゃらし」で遊ばせる時、背面にぐわんと反り返るんだよ。 オリンピックで荒川静香選手が見せた技だけど、まさか、「猫背」の猫がこれをやろうとは。
母ちゃんが毎週欠かさず見ている動物番組には、「ペット面白特集」みたいなコーナーがあって、視聴者宅の動物の可笑しい行動を激写している。 母ちゃんはどんなに仕事が忙しくても必ずこの放映日だけは番組に間に合うよう帰宅する。(忙しいっていうのも怪しいもんだ) 万(ばん)止むを得ず間に合いそうにない時は、ずうずうしくも職場の警備員さんの部屋のテレビを拝借してこれを見る。 見てアハアハ笑う。 この姿だけは恥ずかしくてお見せできない。 で、母ちゃんが言うには、「面白いけど、ウチの猫たちのほうがもっとスゴイ」。 「しかたないなあ」と思いながらもココロやさしい職場の人々は「お宅の猫ちゃんを投稿してみたら?当確ですよ」とおだててくれる。 母ちゃんは図に乗って「時間が出来たら絶対します」とふんぞり返る。 だけど母ちゃん、大のズボラだから、万が一にもオレたちをビデオで撮って投稿したりしないね。 オレは請合う。