26 土の臭いが恋しい 

 

   ウチの母ちゃんはここ4・5日短いながら「夏休み」を取っている。 その日常は、猫のオレがあきれ返るくらいのグータラぶりだ。 折からの酷暑で、旅行も外出もする気にならず、家に引きこもって読書三昧の日々である。
 「ぶん、ヤル気出ないよ~」
なにしろ、早朝5時に目覚めると、すでに全身汗まみれ、ちょっとでも動くと滝のように汗が流れ落ちる。 2・3年前まで、客のある時以外はエアコンをつけなかった母ちゃんが、去年あたりからこらえ性がなくなり、スイッチを押すことが多くなった。 
 「ぶん、歳を取ると、寒さより暑さの方がこたえるんだよ」
そう言えば、夏場は人間の高齢者の急逝が多い。 いや、中年も、若者でさえも、「熱中症」とやらで頓死している。 屋内での熱中症だってあるんだそうな。
 

   でもね、地球の苦しみはそれどころじゃないってオレは思うんだ。 コンクリートやアスファルトで覆われて、呼吸も出来ず、水分も吸収出来なくて、苦しんでいる大地の声がオレの耳には聞こえるよ。 
 母ちゃんが子供の頃は、まだ土というものがふんだんに身の回りにあった。 猫や犬の糞がそこらじゅう転がっていても誰も気にしなかった。 子供たちは泥ダンゴをこね、土埃で真っ黒になって一日中遊んでいた。 台風が来ると、大水の中をゴムの長靴で歩いて登校した。 休校になんか絶対ならなかった。 出水はすぐに大地が吸い込んでくれるから誰も心配しなかった。 アトピーや花粉症で苦しむ者もいなかった。 だけど、人間が大地にフタをし始めた頃から、地球の様子がおかしくなった。 人間も有史以来の奇病に取り憑かれるようになった。
 

   オレだって土を踏んでいない室内飼いの猫だから、エラソーなことは言えないけど、大地の発する危険信号を感じる能力だけは、人間より高いんだ。 ちびやトメはどうかなあ。  本当は3匹で土の上を転げまわって遊びたいんだけど。 そしてオレが感じてることを2匹に伝えたいんだけど。
 今、都市部の人間の子供は、「土」と言えば、ガーデニングセンターで袋に入れて売っている茶色の粉末、というほどの認識しかないのかも知れない。


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