32 猫とクルマは洗わない

 

   母ちゃんのモットーは「猫とクルマは洗わない」である。 
部屋の掃除や片付けはマメにやるほうだ。 風呂も大好きで毎日機嫌よく入る。 ところが、クルマは毎日使っているというのに、何年も野ざらしのままなんである。 洗剤やワックスで愛車をぴかぴかに磨きたてている人は、母ちゃんの実態を知って唖然・呆然。 
「えっ・・・買ってから一度も洗車してない?」
「クルマなんて走りゃいいんだよ」
威張る場面でもないのに大見得を切る。 クルマの上に鳥の糞が落ちていたって平気だ。 雨が洗い落としてくれるのを待っているのである。 母ちゃんは、コレで何人か友達をなくしているだろう、とオレは猫の身ながら心配になる。
 

   一方、オレたちがありがたいと思うのは、母ちゃんに猫を入浴させる考えのないことだ。 オレたちは、日々、自分の体を舐めて毛づくろいをしている。 これは、毛間の脂肪分・塩分を体表に過不足なく配分するための「本能的行為」なんだ。 シャレや酔狂でやってんじゃないんだよ。 ニンゲンさまはオレたちが臭いと思い込み、手前勝手に風呂に入れようとするが、冗談じゃない、やめてほしい。 かえって猫の体に悪いんだ。
 

   この点、母ちゃんはきわめてオレたちに近い「野生のカン」を持っている。
「うん? ありゃ何かワケがあって毛づくろいしてるんだな。風呂も要らないね」
と、なるのである。 我が家を訪れるお客さんたちは、
「まあ、キレイな毛並み。 猫ちゃん、毎日お風呂に入れてるんですか」
とお尋ねになる。 見れば歴然の汚いクルマとは違って、オレたち猫は身だしなみを忘れないからつやつやとキレイである。 母ちゃんはオレたちを風呂に入れないことをバラす。
「えっ・・・拾ってから一度も風呂に入れてない?」
「猫なんて元気で走り回ってりゃいいんだよ」

  期せずして、クルマの時と同じ答えを吐き出す母ちゃんでありました。


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