ぶんの想い出(5)

 ぶんは、人にも食べ物にも好き嫌いを示さない猫であった。
 
 いつの頃からだったろう、ぶんが接待猫となったのは。たぶん、私があまり構ってやらないものだから、お客にすり寄っていくようになったのではないだろうか。もしそうだとしたら、悔やんでも悔やみきれない。
 我が家は、3・4人以上の複数の客を迎えることが多い。玄関のチャイムが鳴ると同時にちびが姿を消す。極度の客嫌いなのだ。それに引きかえ、ぶんはお客の一人ひとりの膝の上に乗って話しかけ愛嬌をふりまく。お客がカメラを向けるとしっかりそちらに向かってポーズをとる。「やあ、カメラ目線だね」と皆が感心すると、さらに調子づいて何かやる。
 いろんな人のスマホにぶんの写真が残っていて、死後にそれを見せられると、如何に彼が人気者だったかが分かるのである。
 
 また、台所で猫メシの準備をしていると、ぶんはどこにいてもぶっ飛んできて、よそっている私の手を払いのけんばかりの勢いで食べ始めたものだ。これもちびとは大いに違う点で、ちびは特定のメーカーの特定の製品にしか口をつけず、飼い主泣かせの猫なのである。気に入らないメシだと、ウンコを埋める時の仕草をするから憎たらしい事この上ない。

 誰にでも優しく、何でも食べてくれる猫。こんな理想的な猫と暮らしながら、そのありがたみを分かっていなかった私は、なんと愚かな人間だったのだろう。(続く) 

    

 


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