ぶんのルーツ判明

 ぶんが旅立って1年。残された飼い主と猫2匹は、ショックから立ち直るのに時間がかかり、いつも誰かが体調を崩していた。今はちびが通院中である。
 
 10月の某日、ちびを病院に連れて行った帰り道、キャリーバッグを抱えて公園を横切っていると、散歩中の老人に声をかけられた。
「この近所の者です。そりゃ猫ですか。具合が悪いんですかの」
「はい、でも回復に向かっています。ありがとうございます」
「うちにも以前、猫がおった」
その後で老人から聞いた話は、生涯忘れられないものとなった。
「全身真っ黒の猫でなあ。ワシが便所の窓を開けておったんで、そこから出てしもうて、それきり帰って来なんだ」
私の心に何か引っかかるものがあった。
「それはいつ頃の事ですか」
「もう、ずっと前。10何年前のことかなあ」
心がざわざわし始めた。
「男の子でしたか、シッポの形は?」
「雄。シッポは曲がりくねっていて短かった」
私は衝撃を受けて、
「その猫は、16年前、ウチに迷い込んできてそのまま暮らし、去年亡くなりました。今、抱いているこのコは、彼が可愛がって育てた猫なんですよ」と一気に語った。
「そうかね、よかった、よかった。16年間、お宅で幸せに暮らしておったんじゃなあ。どうしているかと、ずっと心配しておったよ」
 
 老人の目に涙が浮かんだ。ぶんの一周忌に、初めて知ったそのルーツ。彼の魂が、元の飼い主と私を引き合わせたのだろうか。私は老人の姓を尋ね、近いうちにぶんの写真を持ってお尋ねすることにした。