1 出会い

 

    これは主人公ぶんが「初めての養い子」ちびと出会った場面から書き始めたものなので、二番目の養い子トメの登場は少し後のことになります。 猫マンガと母ちゃんの奮闘記はリアルタイムですが、この「ぶんの子育て日記」は、多少時間を遡ることになります。

    9月のまだ暑い日の夜だった。ウチの母ちゃんが仕事から帰ってきてしばらくして、ぴいぴいというヘンな鳴き声が玄関脇の小部屋から聞こえてきた。あれ、なんだろうと怪しんでいると、翌日の夜に居間のガラス戸越しにそいつと対面させられた。それは生後25日くらいのチビ猫だった。 雑巾の切れっ端みたいな薄汚いぶさいくな子猫で、両目が目ヤニで潰(つぶ)れていた。母ちゃんはオレというものがありながら、またもう一匹猫を飼うことにしたんだ。オレ、正直言ってかなりヘコんだよ。まあ、そのこともイヤだったけど、母ちゃん、どうしてオレとそいつを隔離するんだろう。オレがそのちびすけを噛み殺すとでも思ってんのかな。(事実、そう思っていたらしい)


   そのまた次の夜、近所の娘さんが子猫を見に来た時、彼女が「きゃー、こんなにちっちゃいんだ。でもブンちゃんの機嫌はどうなの~?」と言いながら上がってきて、いきなりガラス戸開けたもんだから、オレ、そいつとキッチリ顔合わしてしまったんだ。 ふにゃふにゃした頼りない体で、オレに擦(す)り寄ってきたそいつを見た瞬間に、オレ、つい、無意識にそのコの頭舐(な)めてやったんだよ。今でもわかんないんだけど、あの時どうしてそうしたんだか。

 
   ・・・オレは、5年前のこと思い出した。オレも捨て猫だったんだ。5年前にここの母ちゃんに拾われ、居間のガラス戸越しに2匹のでっかい雄猫に対面させられて、フギャーと威嚇されて小さくなっていた。でも、先輩達、次の夜にはオレの同居を許してくれたよ。 ほんとはやっぱりオレみたいなのが家族になるのはイヤだったんだろうけど、二匹ともおっとりした性格だから、「ま、いいか」って感じでオレを自由にさせてくれた。もう10年も飼われていていい歳(とし)だったから、オレと猫パンチや猫キックで遊ぶのはちょっときつかったかも。 悪い事しちゃったのかなあ。でもその代わり、ご飯の時は遠慮してたよ。オレは食べ盛りだったけど、あんまりがっつかなかった。新参者の仁義ってわけだ。

 
   そんな暮らしが3年間続いた。その2匹が、一昨年の暮れ、相次いで死んでしまった。母ちゃんは他に人間の家族がない人だから、悲しみも尋常ではなくて、3ヶ月くらい落ち込んでいたよ。 オレ、どうすることもできなくて、困った。母ちゃんがあんまり寂しそうなんで、母ちゃんの行くところ家中ベタベタくっついて回ったよ。ところが母ちゃんはオレが猫仲間を失って寂しいんだと勘違いをしてしまったんだ。 思いこみ、感情移入が激しい人だからね。オレ自身は生き物の死は天命で仕方のないものと生得(しょうとく)わきまえているんだけど。

 
   母ちゃんは仕事で朝7時から夜7時まで家を空ける 土日だって仕事でいないことが多い。そこで母ちゃんは、近所の猫好き一家の娘さんに、なんと、バイト料払うからぶんの面倒一日一時間見てやってくれって頼んだんだ。娘さんもその時フリーターだったから、喜んで来てくれたよ。おかげでオレ、寂しくなかった。お姉ちゃん、ゼニカネ抜きでオレのこと可愛がってくれたから。母ちゃんも安心して仕事に出ていたけど、心の中でいつも「ブンの仲間をみつけてやんなきゃ」とあせっていたらしい。それで今度、母ちゃん、自分の職場に捨てられてたチビ猫拾ってしまったんだ。