ウチの母ちゃんはオレたちのことを職場の同僚にベラベラ喋ってるらしい。 ま、それはいいんだけどね。 やたらにオレとちびの写真を撮っちゃあ、職場に持っていって、誰彼かまわず見せまくってるんだよ。 「ウチのブンはえらい」ってんで。 困るんだよなあ。 あの人変わり者だから。
母ちゃんは常日頃、人間の父親が子供の運動会でビデオ撮るのに場所争いしたり、職場の机に我が子の写真を貼ってたりすることに、ケッ、親バカおやじが、他にやることはないんかい、という態度をとっている。 その母ちゃんが、結局同じことをしてるんだもの。 オレ、恥ずかしくってさ。 年賀状だってそうだ。 よく若夫婦から赤ん坊のまんまるな顔写真入りのが来るでしょ。 それを見ると、またブタまん葉書か、芸がないなあ、とか言って批評するの。(赤ちゃんのいる方、気を悪くしないでください) そのくせ自分はオレの写真をパソコンで丹念に画像処理して年賀状作ってるんだよ。 あ~あ。 あの人、なんとかならないかなあ。
先日、母ちゃんの知り合いの若者たちが7人ウチに遊びにきたんだ。 ちびは引っ張りだこで人気者、超ハイになって客の間を駆けずり回り、最後は疲れ果てて一人の客の膝の上でまるまって眠ってしまった。 オレはあまりかまってもらえなかったけど、別にいじけちゃいないよ。 オレ、大人になったんだ。 えへ。
母ちゃんがオレとちびの写真を見て、「ブンの顔が変わったな」とつぶやいた。 たしかにちびが来る前のオレは、一人前の青年だけどまだ子供っぽさが残っている、可愛い表情で写っていた。 今のオレの顔はこどもを育てている責任あるオトナの厳しい顔だよ。
だってちびすけはいつどんな危ないことをするか、わからないんだもの。 こないだなんか、椅子の布張りのところへ爪を引っ掛け宙吊りになってぴーぴー泣いていたんだよ。 オレがその声を聞きつけて、走っていってちびをオレの前足ではたき落とした。 母ちゃんは何にもしないでオレがどういう行動に出るか観察してたらしい。 「ブン、お見事!」だって。 いい気なもんだ。 オレの仕事はちっとも減りはしない。 ウンチの始末はもうしなくてよくなったけど、体が日に日に頑丈に育ってくるので、いたずらの度合いもグレードアップしてるんだ。 母ちゃんの大事にしてる本を棚から叩き落とす、カーテンの上のほうまで登って大揺れに揺れる、掃除機の爆音にも無謀に立ち向かって吸い込まれそうになる、寝ている母ちゃんの鼻の頭を思い切りかじる、などなど。 オレも、小さい時、こんなことしてたのかなあ。
人間のこどもも、下に弟や妹が生まれると、お兄ちゃん・お姉ちゃんらしく、おいたをしなくなるっていうんだ。 最初は親の愛情が下の子に移っていじけるらしいけどね。 でもやがて自分なりの役割を感じ取って、弟・妹を可愛がり始め、何かと守ってやるようになる。 オレだってそうだよ。 血のつながりはないけどね。