5 イジメ

 

    ちびがずいぶん大きくなって、じゃれあっって蹴られると、時には本当に痛いんだ。 母ちゃんは、オレたちが転げまわってるのを見て、ふざけなのかケンカなのか分からなくなってくるらしい。 実はオレもそこんとこ自信がないんだけどね。 母ちゃんが大嫌いな若者言葉で言うと、時々「マジ、ウザイ」(日本語訳:本当にうっとおしい)。 でも、まだオレのほうが大きいし、向こうは一応女の子であるからして、オレはマジキレ(同上:怒りが爆発する)たことはないよ。 こましゃくれた憎たらしい顔つきになってきて手を焼いているんだけど。 母ちゃんがネコじゃらしでオレと遊ぼうとすると、割り込んできて飛び回る。 オレのおもちゃなんだぞ、もともと! でも、オレはあきらめて、ちびに譲る。 母ちゃんはつくづくとオレの顔を見て、「ぶんはエライねえ。 自分も遊びたいのに、まず小さい者のことを考える。 今時のニンゲンも及ばないよ」と言ってちびを放り出し、オレを抱き上げてほおずりしながら誉めてくれるんだ、エヘ。


  母ちゃんが嘆くところによると、ニンゲンさまの世界では、いたるところで「イジメ」というものが横行しているらしい。 とりわけ、連中の子供の通わなきゃならん所、学校で惨烈を極めているそうだ。 昔もガキ大将なるものがいて、ワルサばかりしていたというけど、彼らは自分より弱い者には手を出さなかったと言うじゃないか。 最近のは違うよ。 弱い者をターゲットにして陰湿なイジメを繰り返し、挙句の果ては、イジメの被害者が自殺をするまで追い詰めている。 小学校高学年から高校まで、自殺者は後を絶たないらしい。

 
  さらには、以前から取り沙汰されることの多いセクハラの他に、ドクハラ(医者が患者に)だの、パワハラ(上司が部下に)だの、DV(家庭内暴力)だの、老人いじめ、ホームレスいじめ、等々、社会的弱者を狙うイジメの種類は枚挙に暇がないほどだ。


  これって悲しいね。 愚かだね。 ネコなんか小っちゃい頃から兄弟同士でじゃれあって、このくらいの強さで噛めば相手を本当に傷つけちゃう、なんて自然に学習して無益な殺生はしないようにセルフコントロールできるんだよ。 それに本格的な狩の仕方も母ネコから教わるけど、それは生きるために他の動物の命をもらわなきゃならない自然界の掟に従ったものさ。 それなのに、人間だけがそのルールを破ってる。 オレは人間をだんだん信用できなくなってきたよ。