10 ちびが帰ってきた!

 

  ちびは病院に2泊して帰宅した。 オレは嬉しくて、ちびの薬くさい体を嗅ぎまわった。 ちびは家に居る時こそ暴れん坊だけど、外に出るとからっきし意気地なしで、病院なんかに3日いればどんなにしおれかえっているだろうと心配だったんだ。 案の定、母ちゃんが語るには、
「こいつは病院ではへっぴり腰で、おどおどして何も食わなかったらしいよ」

  ああ、やっぱりね。 人間世界に「内弁慶」というコトバがあるじゃないですか。
ちびはその典型なんだ。 その証に、帰宅して安心したのか、すぐに食器棚の上に飛び上がって母ちゃんをハラハラさせた。 棚の上から飛び降りた時にはオレだって息が止まりそうになったよ。 手術の縫合口が裂けるんじゃないかって。 そんなオレたちを尻目に、ちびは思う存分暴れ続けた。 3日間の拘束のもとを取らなきゃ、と言うが如く。
 

  そんなちびを見て、実はオレの心境は複雑だった。 オレはちびの姿が見えなくなって丸一日はちびのことを心配してたんだけど、母ちゃんのコトバを聞いてほっとしてからは、ちびが居ない間に自分が今まで出来なかったことをひそかにしていたんだ。 だってオレずっと我慢していたことがイロイロあるんだもん。
 

  まず、母ちゃんにベタベタ甘えること。 オレは母ちゃんのいくところ、どこでも付いて回った。 夜も母ちゃんの布団にもぐって眠った。  次に、ちびに取られていたオレのオモチャで遊ぶこと。 ちびが噛んで原型をとどめていないネコジャラシをソファの下から探し出して、オレは思い切り遊んだ。 母ちゃんもオレに気を遣っておおいに遊んでくれたよ。 
「ぶん、普段はちびに譲ってるけど、どんなにコレがやりたかったことだろうなあ」
オレは息が上がりそうになるまでぴょんぴょん跳ね回り、久しぶりに充足感を得ていたのであった。