11 引越し

 

   母ちゃんがこのごろ頻りに家の中を片付けている。 戸棚の中の物を箱に詰めたり、不用品の処分をしたり。 どんどん家の中が広くなっていく。 そして「工務店のおじさん」というヒトたちが打ち合わせと称して何度もウチに出入りする。 母ちゃんはいつもの仏頂面を引っ込めて、何かとはしゃぐことが多くなった。
 

 彼らの話では、なんと、母ちゃんはこのウチを改造するらしい。 しかも、単に床をフローリングにするとか壁紙張り変えるとかではなく、3部屋ブチ抜いて広いLDKにして床の段差もなくし、キッチンの仕様も全部変えるんだって。 なんで母ちゃんがこんなことにトチ狂ったのか判然としないけど、要するに環境を変えて気分一新したいんだなとオレは思ってる。 母ちゃんもここ数年このウチでいろんな辛い経験をしたので、その痕跡が残ったまま暮らすのでは遣り切れないのだろう。 かと言って、一戸建てを購入して移るほどカネはなし・・・悶々と悩んだ挙句の決心と見えた。 
 

 改築中は、小さな1部屋を残して、残りの空間全てに工事の手が入る。 その小部屋で親子3人?暮らすのはなんとも窮屈だ。 となるとよそに仮住まいをしなければならない。  さあ、困った。 オレたち猫属は自分のにおいが染み込んだ空間でないと息苦しくって暮らしていけないんだ。 だけど、大工さんたちのたてる騒音にも極力弱い。 母ちゃんはその点も呑み込んでるから、ずいぶん悩んだらしい。 結局、母ちゃんはよそに仮住まいをすることに決めた。 オレたちの体臭が染み込んだ布団など持参し、工事の音の聞こえない空間を求めて。 ここからかなり離れた町の、築40年の1DKのアパートだ。 猫同居OKのアパートはなかなかなくって、工務店のおじさんたちがずいぶん骨を折って探してくれたらしい。 母ちゃんは心から感謝していた。
 

   その移住が4日後に迫っている。 2ヶ月間オレたちは知らない町の知らない家を仮の住まいとするわけだ。 母ちゃんの知り合いの人々が荷造り運搬その他を手伝ってくれるらしい。 オレもちびもこのマンションで人生(猫生)始めたに等しいのだから。 今回の引越しは実にスリリングな体験になるだろう。