__この引越し話は今をさかのぼる1年前の騒動です__
今回は母ちゃんが是非にも、と言うので記述者の役割を譲ることにしました。 これから先は母ちゃんの言葉です。
・・・・毎日仕事をしながらの引越しがこんなにキツイもんだとは思わなかった。 土日も容赦なく仕事が入るし、一人暮らしで手は足りないし。 それにもう若くもないしなあ。 まあ、マンションの一部屋にすべての家具を押し込んで仮住まいに移り、残りのスペースをリフォームという計画なんで、知り合いの若者たちに力仕事を頼み、必要最小限の生活道具を持って、隣の区のアパートに引っ越した。 ところがねえ・・・ 猫たちが不安定でどうしようもない。 だいたい、猫なんてものは昔から「飼い主よりも家につく」と言われてる動物だからねえ。 マンションの部屋を片付け始めたころから、どうも様子がおかしいと思っていたらしく、大声で鳴きながら部屋の中をウロウロし始めた。 片付け最終日には部屋の中がガランドウになり、自分たちの臭いの染み付いたモノがなくなったので、不安感はピークに達したらしい。 こうなると「母ちゃん」もへったくれもない。
あたしは奴らにとっては、居心地のいいスペースを奪った「悪党」に過ぎないんだろうな。 特にぶんにとってはそうだ。 マンションでの生活が短いちびに比べ、ぶんはここでの暮らしが板についている。 ここで拾われ、ここで先輩猫たちとの暮らしの悲喜こもごもを経験し、やっと自分も後輩(ちび)を得て一人前になったかどうかの時期に、私の独断による移動騒ぎなのである。 そりゃ腹も立つし、不安にもなろう。
車で30分、古ぼけた1Kのアパートに、最後の荷物と同時に猫たちを運び込んだ日は、正直言って私もクタクタになった。 でも、身から出たさびである。 身辺の人々、近所の方々、大迷惑をおかけしてのリフォームだが、こうなったらやり遂げるしかない。 私なりに居直りを決めたのである。
猫たちはやはり、仮住まいの部屋に想像通りの反応を示した。 若いちびのほうが好奇心旺盛で、「うん? なんだかヘンだけど、とりあえずこの家にアタシの臭いをつけなきゃ」という攻撃的順応態勢である。 ぶんはもうアパートの入り口を入った時点でへこたれ、この家の押入れに入ったまま出てこない。 これでこの先ここで2ヶ月暮らしていけるのであろうか。 私は猫たちに申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、その実、この家での初風呂、初ビールを楽しんだりしている。 その私の薄情な姿に絶望したのか、ぶんも深夜に至ってレジスタンスの旗を降ろしたようである。 押入れから出てきて、ゴハンを食べ、水を飲んだ。 一晩中わめかれたら、2匹を連れて出て行かなければと覚悟を決めていた私であった。