14 「続」母ちゃんのバカ~

 

  「今回は母ちゃんからちびに語り継ぎます。 だってオレ、今いじけてるんだもん」
母ちゃん・・・つくづく思いました。 猫ってのは人間と同じで、一匹一匹人柄ならぬ猫柄が違うんですね。 今回の仮住まいで、ハイ、しっかり勉強させていただきました。 ちびは、人生経験浅いから、「居場所」に対するこだわりが少ない。 ただ、幼児期に私に拾われて大きくなったので、いざ事があると私がそばにいてくれればいいやと全面的信頼?を寄せてくれているようである。 ところが、ぶんのほうはそうはいかない。 拾った時すでに中オトナであったし、長い間放浪してやっとみつけた「安住の地」と「母ちゃん」は彼の頭の中でワンセットになっていたのだ。 それなのにその「母ちゃん」は、ぶんにとってはそのままで十分居心地のいいマンションの部屋を無理やり改造しようとし、見知らぬアパートへ強制移動させられたのである。 裏切られた心の傷は、私なんかが想像できないくらい深いんだろうな。
  

 一方、ちびの方は、メンタルな面ではまったく心配ない。 すでにご紹介したが、ヤツは「攻撃的順応態勢」を決め込み、狭い部屋の中をぴょんぴょん跳ね回りながら、いっぱしの探検家気分である。 「オウチに帰りたい」と半ベソかいている兄ちゃんを尻目に、意気軒昂なのである。 マンションにはいなかった虫を追いかけたりして、結構仕事はあるらしい。 私の目には、しょぼくれてる兄貴を叱咤激励しているかに見える。

 

 ここからは、ちびが「アタシが書く!」と主張し始めた。 
ちび・・・「まったく、もう!」アタシは情けないよ。 お兄ちゃんたら、てんでダラシナイんだもん。 大きな図体してさあ。 なんだい、いいじゃん、どこに住んだって。 母ちゃんがいてくれるんだしさ。 だいたい、兄ちゃんはさあ、お客来た時なんか、スッゴク人間に媚売ってるじゃないのよ。 無愛想な母ちゃんの代わりに接待役引き受けてるって言ってるけど、実は人間大好きなんでしょっ。 兄ちゃんが母ちゃんに拾われるまでどこでどうしてたか、アタシは知らないけど、アタシだっていろいろ辛い目にあってきてるんだからね。 アタシは拾ってくれた母ちゃん以外の人間は信用しないよ。 
 

 くよくよしてないで、さっさと自分の好きなこと見つけなよ。 お兄ちゃん、母ちゃんのビールのコップの水滴舐めるのが日課だったでしょ。 それにアタシの後追っかけてドタドタ走り回るの大好きだったし。 なんで今現在の生活を楽しまないのさ? ここ古い建物だから、見たことない虫いっぱいいるんだよ。 そういうの興味ないの、お兄ちゃん? 
 

 以前、アタシが来る前のことだけど。 お兄ちゃん、母ちゃんのお友達の家に連れていかれた時、そのうちの玄関でへたりこんだんだって? 玄関の床に、梅の花の紋いっぱい付けたんだって母ちゃんが言ってたよ。 猫の足の裏の肉球の形が梅の花形をしてるからこう言うのだけど。 猫がパニックになると、肉球に普段はかかない汗をいっぱいかくんだ。 その結果、梅の花形のスタンプをそこらじゅうに押すことになる。 お兄ちゃん、それ、やったんだよね。 恥ずかしいねえ。 
 まあ、仮住まいの暮らしも2週目に入って、兄ちゃんもそろそろあきらめたのか、「おうちに帰りたいよ~」とベソをかかなくなった。 妹としては大安心だね。