この章から、やっと現在の「トメ」が登場することになります!
知~らないよ、知らないよ。 オレはもうたくさんだからね。 皆さん、聞いてください、母ちゃんがまた子猫拾ったんだよ。 ある休日の朝、マンション隣接の公園から子猫の泣き喚く声が聞こえてきた。 母ちゃんはその種のトーンには敏感なヒトだから、部屋の窓から首を突き出して「ウン、何だ?」と辺りを見回した。 その時、母ちゃんはすでに覚悟を決めていたのだろう、数分後にその子猫を部屋に連れ帰ってきた。
オレは嫌だよ。 チビの時のことで懲りてるからね。 こんなヤツ知るもんか。 しかもチビとは違って捨てられて半日くらいしか経っていないのだろう、そんなにボロボロじゃないじゃん。 チビは母ちゃんに拾われた時、目ヤニで両目がふさがれ、栄養状態も悪く、この先生きられるかどうか危うかった。 だからオレは仕方なくチビの「保母さん」やったんだよ。 おかげで、猫界のヨンさまと言われたオレの顔は育児の過労で老け込み、体はストレス太りのメタボおやじになった。 まあ、それはいいけどね・・・
オレとチビは先住者の当然の権利として、この子猫を「シャー!」と威嚇した。 子猫はあまりコタえていないようで、けろりとオレたちの皿に首を突っ込んで食事をする。 チビの攻撃はオレどころじゃない。 子猫を連れ帰った母ちゃんにも八つ当たりのネコパンチを喰らわす。 母ちゃんは頬と鼻の頭に引っかき傷をこしらえた。
「アタシ、絶対ヤダからねっ。お兄ちゃんからも母ちゃんに言っといてよっ!」とばかりチビはオレにまで強烈な猫キック。
その子猫は、悪いけどハッキリ言って、チビにそっくりだ。 茶トラの縞模様、目がクリクリの小生意気な顔立ち、チビが仔を産んだら(もうできないけど)、きっとこんなのになるんだろうな。 初めの二晩、チビは、これ以上はないというほど、子猫を威嚇・拒絶した。 オレも仕方ないからチビに付き合って、子猫に軽い猫パンチをチョイチョイと食らわした。 母ちゃんはこの子がチビに喰われるといけないから、朝出勤時にはオレたちをリビングに、子猫を廊下に、ガッチリ隔離して出かけていった。 職場でもさぞかし仕事が手につかなかったことだろう。 いつもより早めに帰宅して、リビングと廊下の間のドアを開け、オレたちと子猫の融和対策にとりかかったものである。
1年前、チビが拾われてきた時、オレは2・3度シャーッと威嚇しただけで、すぐにチビの面倒を見始めた。 そのことが頭にあるものだから、母ちゃんは今回のチビの激昂に恐れをなし、オレのほうへ情けなさそうに声をかける。
「ねえ、ぶん、お手本見せてやってよ」
「んなこと言ったってアイツがいやだってんだから仕方ないじゃん」
オレはこの件に関しては徹底的に傍観者を決め込むことにした。 チビへの遠慮もあるし、安易に子猫を拾ってきては先住猫に面倒見させる母ちゃんの軽率さにも腹が立っていたからだ。