18 いいかげんな命名

 

   チビに育児を任せきっている母ちゃんだけど、さすがに呼び名くらいはないと不便だと気づいたのか、「おトメ」という名前を考え付いた。 この名前の由来は、子猫が知れば憤慨モノである。 以下は母ちゃんの実にいい加減な命名法であります。
  

   『もうこれ以上拾えないよな。 私にだって経済的な理由もある。 拾ったコは雌で避妊手術で何万もかかるし、日常のエサ代・猫砂代だってバカにならないし。 ああ、やっぱり私は愚か者なんだな。 他人が捨てた猫拾って、お人好しの極致だな。 毎日のエサ・トイレの世話だって大変だよ。 職場に遅刻しそうだな。 ところで名前だけど、戦前の日本の家はほとんどが子沢山でビンボーだった。 もうこれ以上生まれるなという意味で末っ子に「留三(とめぞう)」とか「捨吉(すてきち)」とか名前つけたんだよな。 じゃあ、このコも「おトメ」にしよう。 でもちょっと動物病院で名前を言う時、恥ずかしいかも。 ま、いいか。 これで打ち止め、ってわけさ。 たまんないよな、これ以上増えちゃ。 そもそも、捨てるヤツが悪いのにさ・・・ブツブツ』
なんだか知らないけど、母ちゃんはブツブツ言いながら、子猫の名をおトメと決めた。
 

 

   と言う訳で、にぎやかな毎日が始まった。 あのね、オレだっておトメを全く無視しているんじゃないよ。 コイツ、オレが横んなってると、オレの腹の上を走って横切るし、オレの自慢のダンゴ尻尾には噛みつくし、もう散々なの。 でも我慢してるよ。 オレ以上にチビの負担が重いからね。 おトメは最初にかまってくれたチビを「かあちゃん」と認識したらしく、それはもう、チビの後を慕ってつきまとって、たいへんなんだ。 チビはかなりの美少女猫だったんだけど、このごろは「育児の疲労」でキビシイくたびれ顔になってきた。 オレと違って尻尾がスンナリ長いものだから、おトメにとっては格好のエジキなんだよ。 それを振ってはおトメに狩の演習をさせてる。 オレたちは室内飼いの猫だから、それしか実地演習はできないんだ。 たまに母ちゃんが紙をクシャクシャに丸めたのを放り投げてくれるけど、結局日常的なしつけはチビがやるはめになった。 オレもチビをそうやって育てたのかなあ。 過ぎた日々のことは思い出せない、情けないな、オレ。