我が家では、毎日、母ちゃんが仕事から帰ってくると、我々3匹の猫がリビングのガラス戸を隔てて「お帰りなさい」と出迎えるのがしきたりである。 そして、母ちゃんが持ち帰ったスーパーの買い物袋をガサゴソと物色するのである。 母ちゃんが子供の頃も、同じことを自分の母親に対してやっていたらしい。
「何かいいもの、ないかなあ」の子供心は動物でも人間でも似たようなものだ。 母ちゃんは我々の出迎えをことさら喜ぶから、親孝行なオレは他の2匹を引き連れて、この習慣を励行している。
そんなある日。
つい先日、おトメが油を舐めて化け猫騒動をやらかしたばかりというのに、今度はチビがとんでもないことをやってくれた。
ある夜、母ちゃんが帰宅してガラス戸の向こうを見るとオレとおトメだけだ。 真っ先にぶっ飛んでくるチビの姿がないので、母ちゃんは心配になった。 リビングから和室に入った母ちゃんはオロオロしてチビを探す。 と、その時、うがうがという苦しそうなうめき声が、畳んだまま置いてある布団の中から聞こえてきた。(われらが母ちゃんは無精者で、起床後、布団を畳みはするが、押入れに入れない) よく見ると、布団の内側がもぞもぞと動いている。 チビだ!
なんと、チビは掛け布団カバーにあった8cmくらいの裂け目から頭を突っ込んで内部に侵入し、布団本体の反対側に回っていって、そこから出られなくなっていたのである。 脱出不可能となってから、どのくらいの時が経っていたのか。 誰にもわからない。 母ちゃんはため息をつきながら、チビを救出したのであるが、ヤツは感謝するどころか、自分の愚行が恥ずかしくて気持ちの持って行き場がないのか、思い切り母ちゃんの二の腕に噛み付いた。 その後もオレやおトメにさんざん猫パンチ・猫キックを喰らわした挙句、ふてくされて寝てしまった。
母ちゃんの説によれば、我々猫族は人間同様「恥ずかしい、照れくさい、マがもたない」という高度な感情を有しているんだそうだ。 そうかな? そうかも。 だから、皆さん、オレたちのこと見直して、もっと優しく接してね。 ま、それはともかく、チビの気性はとてつもなく猛々しい。 怒った時の顔なんかリビア山猫にそっくりだ。 人間も獣も誰だって近づけない。 野生で生きていれば猫界の女ボスであろう。 人間で言えば、若いながらも組長夫人(=姐さん)の貫禄である。 そのヤマネコが、都合の好い時には「母ちゃん、抱っこ」と甘えて母ちゃんの両腕の中でゴロゴロ喉を鳴らすのだから、コイツの頭の中はどうなってるんだろうと不思議でたまらない。
たぶん、ボロボロの状態で母ちゃんに拾われた時のことを、折にふれて思い出すのか。 それに比べて、おトメは(捨てられてすぐ母ちゃんに拾われたので)無邪気、天真爛漫である。 まあ、悪く言えば、恩知らずの我儘ムスメである。 チビは横目でおトメを見ながら、「ケッ、この苦労知らずが」と心中複雑な思いでいるのに違いない。