今回の記事は、突如オレの身に降りかかった厄災なので、母ちゃんが自分が書くって言っています。(今から半年くらい前のことです)
暮れも押し迫った12月のある夜。 ウチに帰って、出迎えたぶんを抱き上げて、私は腰を抜かしそうになった。 ぶんの肛門の下に、もうひとつ爆裂口が開いているのだ! 真っ赤にただれて、中の内臓が見えそうになっている! 私はどうしようもないほど動顚して、掛かり付けの獣医に電話した。 留守電に「ウチの猫が大変なんです、診てもらえますか」と。 夜8時だ、診てくれるわけがないと絶望しながら、それでも藁をもつかむ思いであった。 同じマンションの猫仲間の奥さんにも電話をして、食事中のところなのに、すぐに来てもらった(彼女は現役の優秀な看護師さんである)。 獣医からは奥さんの到着と同時に折り返し電話があった。
「どうしたんですか」「肛門の下に大穴が開いて、中身がみえてるんですう」「あ~、それはニオイブクロが破れたんですよ」「ニオイブクロ?」「猫にはよくあることです、心配ありませんよ。 一応元気なんでしょ」「は、はあ」「今、外からなんで。明日の朝連れていらっしゃい」
ということになった。 駆けつけてきてくれた奥さんも、とりあえず、ぶんが普段どおり歩いているので、ひとまず安心して帰っていった。 いっときのパニックが収まり、やや冷静になってぶんを見ると、なるほど、テーブルの上には飛び乗れるし、顔つきも尋常である。 わからないというのは怖いもので、私の意識はぶんの傷口にだけ集中して、ぶんが比較的元気であったことには及ばなかったのである。
そういえば、ここ何日か、ぶんは体をさわられると「にゃ~!」と痛そうな声を上げ、どうも様子がおかしかった。 今考えると、ニオイブクロ(=臭腺)にバイキンが入り、あちこちのリンパ腺も腫れ上がって痛かったのだろう。 今晩は、それが破裂し、膿が外に出て、多少楽になったと思われる。 人間も同じで、オデキが膿を持って腫れ、それが破れるまでが辛いというが、猫もそうだったのである。 しかし、腫れ物が破れた直後に遭遇した私としては、驚かざるを得なかった。 肛門の隣に大穴が開いていて血膿だらけなのである。 思わず、他の2匹を疑った。
「アンタたち、ぶんを噛んだね!」
2匹はキョトンとしていた。 思えば毎日が戦場である。 チビとトメは、ぶんがおとなしいのをいいことに、好き勝手をやっていたのだ。 はたく、噛み付く、蹴り上げる、追い回す。 そして都合のいい時だけ、ぶんの腹を枕にして眠りこけていた。 ぶんは何をされても、されるがままだ。 絶対にやり返したりしない。 ただ、痛そうに「にゃー」と泣いていた。 私はそれを見て、薄情にも
「やあい、ぶんの意気地なし」
と嗤っていたのだ。 これほど後悔が身に染みたことはない。
「ぶん、ごめん」
私は心から謝った。 きっと2匹にどこかを噛まれてバイキンが臭腺に入り、化膿させたのであろう。
「母ちゃんが悪かった」
いつも、動物写真家気取りで、ぶんが2匹にやられている時の困り顔などを撮り、「ダメおやじ~」と名付けて、知り合いに見せ回っていたのである。 ウチは気のいいとうちゃんと3人の性悪オンナの家族なのであった。