23 容姿

 

   身内が言うのもなんだけど、チビはかなりの美形である。 そりゃ怒るとリビア山猫みたいにこわい顔にもなるんだけど、普通にしていれば彫りの深い顔立ちの美しい猫である。 そこらを歩いている日本猫のように平べったい顔ではない。 また、くっきりと浮かび上がったトラ縞、つやつやした毛並みが惚れ惚れするほど見事だ。  だけど、拾われてきた時は、オレが「雑巾のきれっぱしみたいな猫」と評したように、救い難いほど汚い子猫だった。 それがウチに来てから見る見るうちにキレイな猫になっていったのである。 もっとも、オレが一生懸命毛づくろいしてやったし、ね。 エヘン。

 

 

   一方トメは捨てられてすぐ母ちゃんに拾われたので、汚れてもいず、愛くるしい表情の、食べてしまいたいほど可愛い子猫だったのだ。 しかし、コイツは性格の凶暴さがだんだん顔に表れるようになって、今では憎たらしい面構えのあばずれ娘猫である。 おまけにコイツの毛並みはチビみたいなくっきりしたトラ縞ではなく、半端な縞がばら撒かれた、薄汚いハイエナ模様になってきた。 
 母ちゃんはトメが悪さをすると、「こらあ、このブスっ」とののしる。 
「姉ちゃんは美人だし拾われた恩義をわきまえている立派な猫なのに。 オマエはブスのくせにそういうこともわかってないバカ猫だあ。 けしからん」

 

   言葉がわかったら、家出をしそうな内容である。 だいたい、人間でも、親はけっして兄弟姉妹を比較して叱ってはならないそうだ。 必ずグレる。  猫だって、語調・語気で、何を言われているかだいたい分かるのである。 歳を経た猫ほどよく分かる。 
「オマエのような悪い猫はウチに置けない。 出て行け」と冗談半分で叱ったら、そこのウチの猫が家出をしてしまった、という話はよくある。 もっとも今ではマンションの室内飼いも多く、出て行きたくてもいけないケースが多いかもしれない。 
 そんなわけで、トラとハイエナ、「義理の姉妹」2匹と一緒に暮らしているオレである。

 

   オレは、何度も述べてきたように、母ちゃんに客があるたびに、愛嬌を振りまいて接待役を務めてきたわけなんだけど、このたび、そのお役をトメに譲らざるを得なくなった。  というのは、年末の「営業時」にオレが例の病気をし、チビの対人恐怖症がますます昂じ、オタオタしているところへ何組か客があり、トメが突如としてデビューしてしまったのである。 ヤツは弱りきってる我々を尻目に、体力に任せて、お客の前でチビ譲りのアクロバットを何十回も披露し、万雷の拍手を受けていた。 トメの特技はこれだけではない。 以前、「風太」というアライグマが後足で立って人気者になったが、トメも30秒以上後足で立っていられるのである。 これはかなり見ごたえがある。 ただし、いまだに他人には見せていないから、誰も信じてくれないかも知れない。 ヤツはぶさいくなので実力で勝負に出ようとしているのではないか、とオレはにらんでいる。