24 何も置けない

 

   母ちゃんはこぼす。
「せっかくリフォームしたのに何もキレイな物が置けない」
それはそうだ。 オレたち猫族によって
花瓶はひっくり返される。 観葉植物は最後の一枚まで葉をかじられる。 額縁は壁から引きずり下ろされる。 カーテンはボロ雑巾同然。
 

 信じがたいことだが、母ちゃんにも「少女の頃の夢」ってのがあって、本当は自分の部屋をキレイな物で飾りたいのである。 貧しい家庭に育った母ちゃんは、少女時代、友達の金持ち娘の家に招かれるたびに、いつかこんなキレイな広い部屋に好きなものを飾って暮らしたいと憧憬の念を抱いたのだろう。 幼い頃の心の飢えは恐ろしい。 今はこんなココロの襞を見せることもなく、母ちゃんは毎日ガシガシ働いている。 そして、そういう趣味を堂々と表に出している女性のことを罵倒している。 
「ケッ、俗物め」
 でも実は母ちゃん自身が大の「俗物」なんだ。 オレは思うよ。 人間って、自分にも思い当たる節がある場合や、実現できないけど潜在的な願望をもっていることを他人がやった場合に、ひどく悪口を言うのではないか。 まったく自分には考え付きもしないことには、そんなに嫌悪の念を抱かないものだ。 せいぜいあきれ返るくらいであろう。
 

 リフォーム後、母ちゃんは少ない休日を利用してはホームセンターを駆け巡り、安物ながら気に入った色柄のカーテンを買い込み、嬉しそうに部屋に取り付けていた。 それが、トメを拾って1ヶ月、ボロ雑巾同様にされてしまったのだ。 トメの一番好きな運動がカーテン上りだからである。 この時点で、母ちゃんは部屋を飾り立てるのをあきらめた。 
「どうせコイツに破壊されるんだあ」
と無気力な顔でつぶやいたのである。