27 深窓の令嬢

 

   母ちゃんの知り合いには、もちろん、犬猫を飼っている人が多い。 知り合ってから影響しあったのか、犬猫が好きだから気が合うようになったのか、判然としない。 だが、その中で圧倒的に多いのが、自らの子育てが一段落つき、子供と距離を置くようになった人々である。 家にいる時間が減ってきた息子・娘の代わりに、黙って愛情を受け止めてくれる動物たちは、なんともいとおしい存在なんだろうなあ。 (これは悪口ではない。 自然にそうなっていくんだろうと、母ちゃんもわきまえている) そして、その人達の飼っている動物のほとんどが、公園で拾われたり、処分の運命から救われたものである。
 

  母ちゃん自身は、物心ついた頃にはもう家に動物がいた。 貧乏だったが、常時、犬、猫、鳥などが身の回りにいた。 犬猫はそこらへんで拾ってきた雑種で、与える食べ物は人間の残飯であった。 今とは違って栄養学なんて浸透していなかった時代だから、さぞ塩分の多いモノを食わせられたのであろう。 皆、長生きはできなかった。 でも、のんびりした時代であったから、彼らが自由に近所をほっつき歩いても誰も文句を言わなかった。 
 

  一度だけ、(少女時代の)母ちゃんがビックリしたことは、金持ちの友達の家に遊びに行って、その豪勢な居間のソファに「シャム猫」というお嬢様猫が鎮座されていたことである。 母ちゃんが飼っていた「駄猫」とは天地の相違、ゴールドの首輪をして歩き方までしずしずと上品であらせられたのだ。 ここに至って母ちゃんは、猫は拾うだけではなく、ペットショップ(当時は何と呼ばれていたか、忘れた)で高い金を出して買うこともあるんだ、と学習した。 
 

  それから幾十年かが過ぎ、母ちゃんにも多少の経済的余裕が出来たが、いまだにカネを払って動物を買ったことはない。 理由は二つある。 第一にペットショップに行くのが嫌だ。 狭いケージに入ってそこでひたすら飼い主の出現を待っている犬猫を見るのがつらい。 売れ残ったらどうなるのかを考えるのもつらい。 第二に、そんな所へ行くマもないうちに次々に捨て猫が持ち込まれる。 そしてその世話に忙殺される。

  
 
  ってなワケで、オレは、貴種の猫とお近づきになることもなく、雑種仲間と気楽な毎日を過ごしている。 たまにはメインクーンやスコティッシュフォールドのお嬢様とお茶でも、と思わぬことはないが、チビやトメに知れたらコトだから、皆さん黙っててね。