28 ぶん、家出を決意する?

 

   母ちゃんがまた職場で捨て猫を保護した。 前回と同じく、目ヤニ・かさぶたで顔中を覆われた幼児である。 見て抱き上げてしまった以上、責任を持って引き取り手を捜さねばならぬ、というのが母ちゃんの信条である。 だが、世の中は甘くない。 いくら呼びかけても、「ウチのマンションは動物飼えない」、「家族に猫毛アレルギーがある」、「パパが許さない」、「ウチはもう(犬猫が)いるから」などの答えが返ってくるばかりで、母ちゃんはヘトヘトになり、世を憂うヒトになって落ち込んでしまうのがオチである。 事実、今うちで番を張っているチビも、呼びかけに疲れた母ちゃんが仕方なく自宅へ連れかえった猫である。
 

   と、ところが。 今回は最初に呼びかけた女性が「YES」と言ってくれたのである!
「パパが動物ダメなんだけど、無視します。 娘と私が飼います」の決然たる一言を賜った。 その瞬間、母ちゃんは気が遠くなるほど嬉しかったんだそうな。 「こんなこともあるのか」 頬っぺたをつねりたいほどの幸福感に包まれて、母ちゃんは仕事を再開したのである。 *里親がみつからないと、このヒト仕事が手につかないから、神様が按配してくださったのかも。

  一方、オレの気持ちは。 (オレは、家にいない時の母ちゃんの言動も、すべて天眼鏡で把握しているのだ)  一時はどうなるかと思ったよ。 また家族が増える! 母ちゃんは進退窮まって家に子猫を連れ帰るに決まってる。 そしたら、またオレが面倒見るんだよ。 目ヤニ・かさぶた舐め取って、肛門刺激してウンチ出してやる仕事、またやんの~? 勘弁してよ。 チビもトメもそんなことしないよ。 あいつら一応「元オンナ」だけどね。

  オレは家出を心に決めた。 これ以上オレの負担が増えちゃ、たまんない。 オレだって花の中年、しぶいオジサマ。 ちょっとその気になりゃ、惚れてくれるオンナの子の一人や二人、外にいるんだからな。 くそう、バカ母ちゃん、オレがいなくなってから、オレの有難味を知ればいいんだ!  ・・・と旅行かばんに髭剃り道具なんぞ揃えていると、天眼鏡に「里親さん現る」の映像が出た。