「あなたとは違うんです」
と、オレは福田さんに言いたい。 オレは母ちゃんが拾った子猫の世話を次々に押し付けられたけど、途中で投げ出すようなことはしなかったぞ。 何度も書いたけど、猫の幼児の世話って大変なんだよ。 肛門刺激してウンチを出し、目ヤニを取って毛づくろいをし、ちょっと大きくなれば遊びの相手をしなきゃならない。 遊びは子猫にとって「狩の学習」だから、絶対手を抜いちゃいけないんだ。 室内飼いの猫だって、ご先祖様から伝わる技の習得をおろそかにしてはいない。 機械文明の便利さに酔いしれて、心身の機能を低下させたニンゲンと一緒にしないでよ。
「狩の学習」だって、指導する側には多大な忍耐を強いられるんだよ。 子猫は限度というものを知らないから、思い切りオレを噛む、引っ掻く、蹴り上げる。 それを仲間同士の「ジャレあい」レベルと、本気の生存競争のレベルに、区別してやらなきゃならない。 そうやって猫社会のルールを徹底的に教え込んでいく。 守れないヤツは社会的に抹殺されるのだ。
オレは母親、トレーナー、教師、などの役割を全部1人で引き受けているんだよ。 まあ、自分で覚悟してやってることだから、いいけどね。 でも、時々、つらいことがある。 オレの子供の頃のオモチャを使って、母ちゃんが子猫を遊ばせてる時。 オレだって、今もそれで遊びたいんだ! 母ちゃんはオレに育児をさせてる負い目があるから、オレの機嫌を取って、こっちにも猫ジャラシの穂先を揺らす。 オレは思わず尻を振って臨戦態勢に入る。 そこへチビとトメが先を争って突進してくる。 オレは突撃の機会を譲る。
「ぶん、えらいっ」
母ちゃんはこの時ばかりは手放しでオレを褒める。 オレだって褒められて悪い気はしないから、すました顔で猫ジャラシから目をそらす。 でも、本当はこいつら突き飛ばして思い切り猫ジャラシで遊びたいんだよお。 あ~ストレスたまるっ!