33 わかってないトメ

 

   オレはある程度大きくなってからハグレ猫になり、さんざん世間を放浪したあげく母ちゃんに拾われた。 人間で言えば中学生くらいだったろう。 だから少しはモノも考え、人間観察もし、「こりゃあ押して押して押しまくれば何とかなるぞ」と母ちゃんの弱みに付け込んでじわりと居座ったのである。 最初の出会いから拾われるまで数日、間があった。
 

   チビはもう、悲惨であった。 まだ手のかかる幼児、目やに・かさぶたで顔じゅう覆われ、ボロ雑巾状態で母ちゃんの膝に乗ってきて救いを求めた。 それからのオレの奮闘は何度も書いたからもう触れない。  不思議なのはトメである。 ヤツは捨てられた直後に母ちゃんが発見して連れ帰ったのではないか。 チビのように汚れてもいず弱ってもいなかった。 従って、チビの時ほど手はかからなかった。
 

   何が言いたいかというと、拾われた時の状況が、飼い主に対する態度を決定するのではないか、という事である。 チビは、母ちゃんにしかココロを開かず、お客さんが来たら即カーテンの陰に身を隠す。 夜はゴロゴロ喉を鳴らしながら母ちゃんの腕を枕に眠る。  母ちゃんに名を呼ばれると「ウンニャ」と返事をして駆けつける。 叱られたらシュンとなる。 ところが、トメときたら、どうだ! 母ちゃんが呼んだって来ないし、いたずらが激しくて叱られてもケロリとしてまた繰り返す。 お客さんにも「遊んで攻撃」を平然と仕掛け、ためらい・物怖じ・遠慮などというモノは一切感じられない。
 

   要するに、チビは母ちゃんを子猫心にも恩人と刻み込んだのであろうし、トメは「たまたま家へ呼んでくれたヒト」ぐらいにしか認識してないのだ、ということ。  オレは・・・どうだろう。 チビやトメとは違うと思う。 それが何かってことを表す言葉がみつからない。 オレのボキャブラリー少ないから。 しいて言うなら、母ちゃんのこと少しわかってるへんな猫ってとこかな。