57 昭和人間にとっての黒四ダム

 

   何回か書いたが、母ちゃんは時代劇・動物モノ・「笑点」以外のTV番組はめったに見ないヒトである。 その母ちゃんが、ちょっと前、「黒部の太陽」という黒四ダム建設当時の苦闘を描いたドラマを見て、泣きそうになっていた。
 

   戦後日本の復興期、人々の心は豊かな未来を目指してひとつになり、「頑張る」という言葉に何の陰影も感じられなかった頃の実話である。(価値観が多様化した現代日本では、「頑張る」のはむしろ個々の心身に悪影響を及ぼす可能性のある所業とみなされている。母ちゃんはそのことをとやかく言う気はない。心を病んでいる人に言ってはいけない言葉であることも、自分自身の経験を踏まえ、わかっている)

   それはともかく、若き日に日本アルプスの名峰のほとんどを踏破している母ちゃんである。 北アルプスの映像やら、ダムやトンネルの建設現場の修羅場を見、改めて大いなる自然に挑むちっぽけな人間の、アリのような姿を見て、胸が熱くなった。 母ちゃんは高校の修学旅行で初めて黒四ダムを訪れた時、感動のあまり詩をつくり、それが掲載された雑誌をいまだに大事に持っている。(別に自然破壊を是とするものではない)

  「昔はよかった」と言い始めるのは、老いた証拠だとよく言われる。 だけど、時代がここまで膿み爛れてきた今、誰がどう見ても、昭和のあの時期は輝いていたのではないか。 あの頃の子供たちは塾など知らず、家に帰ればランドセルを放り投げ、暗くなるまで近所で遊び呆けていた。 オトナはそんなコドモを叱り飛ばしながら、せっせと稼業に精を出していた。 家にはまだ年寄りが健在でコドモの世話を焼いていた。 それぞれの世代がそれぞれの「仕事」に何の疑念も抱かず「頑張っていた」、最後の時代である。
 

   オレたち猫のエサも粗悪だったらしいけど、空き地で集会なんぞやって情報交換をし、そこらに糞をしても叱られない、古きよき時代であったのだろうなあ。 猫も人間も、どう「頑張ったら」いいのか、わからない時代に突入している。

  

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