離島の医師

 

   私は、今回の離島での仕事で、医療の原点にいる二人の人間の生き方を知ることになった。 前回ご紹介したゲロゲロ船旅の余波で、上陸日の深夜、重症者を島の診療所に搬送したからである。 そこには、島で唯一人の医師と唯一人の看護師がいた。
 

   常々、大都会の大病院の診療形態に、私は疑問を持っていた。 とりわけ最近では、緊急事態で搬送されてもタライ回しにされるケースが頻発し、命を失う人があとを絶たない。 これは医療機関に携わる各部署の個人個人を非難しているのではない。 社会の医療システムそのものが(科学の進歩とは裏腹に!)疲弊・崩壊してきており、モンスターペイシェントの跳梁跋扈を許していることを言っているのである。 

   深夜の孤島の診療所で、患者を医師に診てもらいながら、私は生まれて初めて「お医者さん」としみじみ話をすることが出来た。 その先生は、島でただひとりの医師だから、全ての診療科目(内科も外科も、その他すべて)をカバーし、ただひとりの看護師を支えに奮闘しているのである。 もちろん、薬局もなければ薬剤師もいない。 この二人が全責任を負って薬の調合も行い投薬もするのである。 だからこそ、島の住人はモンスターペイシェントになるはずもなく、たとえ彼らの力が及ぬ事態が生じても、彼ら二人に全幅の信頼・尊敬を寄せているのである。
 

   都会の医療関係者でも、崇高な理念のもと、医療の進歩のために、日夜身を削って精進している人がいることを母ちゃんは知っている。 だけど、こういう人々が患者のために実際に動けるかどうかは、システム上、別問題なのである。 
 

   この診療所の医師・看護師は、自ら離島での診療を志願して、この島に赴任したと言う。 真っ黒に日焼けして、笑顔のステキな二人であった。
  

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