ぶんの想い出(3)

  人間関係以上に複雑な「猫関係」に驚いた私であるが、それ以上に猫の世界の「仁義」を知って感無量であった。 まず、食事時。3つの皿に盛ったフードを床に置くと、ぶんが真っ先にやって来て顔をつっこむ。次がちび、そして最後にとめである。この順番は決して変わることがなかった。そう言えば、2匹の先代猫がいた時代、ぶんは食べ盛りの若者であったが、食事時は決して彼らに先んじて食べることはしなかった。この家にやって来た時期が早い猫から順に食事をするのである。

  また、猫じゃらしで遊ぶ時は、3匹同時に飛びかかることがない。誰かが飼い主に遊んでもらっているあいだ、自分の方へ穂先が向くのを辛抱強く待っている。決して横合いから手を出すことはないのである。うずうずしながら待っている。私もそれなりに気を遣い、3匹に平等な機会を与えた。「私が私が」と我を張るニンゲンどもに比べて、なんたる礼儀良さ。お互いの疑似「狩り」演習をとても尊重し合っている。頭の下がる思いの私であった。

 3匹のうちの1匹が行方不明になることが時々、ある。といっても室内飼いであるから、飼い主の不注意で、洗面所に1匹いるのに気付かずに戸を閉めてしまう場合など、だ。すると、他の2匹が、必ず妙な声を出して私に異状を訴えるのである。「母ちゃん、~がいないよ、どっかに閉じ込められてるよ」と。ぶんをめぐるライバル同士のちびとめであっても、こういう場合は姿の見えぬ相手を心配しあう。
 またしても比べてしまうが、感情的に対立しているニンゲン同士は、なかなかこうはいかないものである。そういう醜さを持つニンゲンと、他の生き物との優劣は、いったい誰が決められるであろうか。(続く)