ぶんの想い出(4)

  ぶんは「ヤギ猫」だった。とにかく、紙と言う紙を噛みちぎるのである。家の中に、無防備に大切な書類など置けなかった。朝目覚めると、枕元の読みかけの本から、何ページかが消えていたことなど、しょっちゅうであった。また、トイレの戸を閉め忘れたりすると厄介なことになる。ぶんが待ってましたとばかり、トイレに入り込み、トイレットペーパーのロールをぐるぐる下ろしまくってご満悦になるのである。
 
  ベランダには猫草その他の植物もあったから、何も紙を食わなくたって消化を助ける繊維摂取には困らなかったと思う。してみると、「紙荒らし」はぶんの趣味であったのだろう。ぶんはよく他の2匹をベランダに連れ出し、「キャットフードだけじゃダメなんだよ、こうして草を食べて毛玉を吐かないとな」と教え込んでいた。2匹は、飼い主のいう事は聞かなくても、兄貴の言う事にはよく従った。おかげで、わが家のカーペットは猫どものゲロ吐きでいつもシミだらけだった。
 
  朝の出勤時には、ぶんが2匹を連れて私を見送るのが常だった。居間のガラス扉の向こうから、3匹揃って「行ってらっしゃい」を言ってくれる。帰宅すると、同様に3匹が「お帰りなさい」と出迎えてくれた。人間の家族がいない私にとっては至福の時間であった。こういう時にはこうするもの、とぶんが根気よく躾をしてくれたから、私は気分よく出かけることが出来たのだ。たとえどんなに職場でイヤな事があっても・・・(続く)